ベトナムの首都ハノイの北東110 kmに位置するHuu Lung(フールン)は、山間部にあるものの割合と拓けた土地の農村で、石灰岩の岩山が無数にそびえ立っています。
この地で、ハノイのクライミングジムVietClimbが開拓に当たっており、点在する岩場16本に200本超のスポートルートが、主にチタンボルト、グルーインのステンレスボルトで引かれています。
東南アジアの岩場は、タイのクラビが最も有名ですが、岩場の規模感は遜色ないように感じます。
2024年現在、宿泊施設が貧弱で娯楽もほぼありませんが、未発展の分、滞在費用を抑えることができ、クライミングだけしたい人には最高の場所かもしれません。
24年3月訪問
私がHuu Lungを訪問したのは24年3月1〜9日です。
岩場の存在は知っていたものの、インターネット上に宿泊先や予約方法、料金、アクセスに関する情報が少ない上、ビレイヤーが見つかるか分からないので躊躇していました。
ベトナム北東のカットバ半島でクライミングしていたところ、即席パートナーのアメリカ人のD氏が、Huu Lungに行くと言います。
ホーチミンで知り合ったオーストラリア人と合流するそうです。ちょうど良い機会なので、一緒に登ることにしました。
2月末、D氏は月極めで借りているバイクで、私はバスでカットバを離れました。
宿
Huu Lungには、宿が3軒あります。
内訳は、VietClimbが予約窓口となるMao’s Homestay、Woofstuck homestay, Headwall Climbing Houseです。いずれもアゴダなど旅行予約サイトには載っていません。
Mao’s HomestayはVietClimbのWebサイトからメールし、予約するのですが、ほかの2軒はよくわかりません。
米国人D氏がHeadwall Climbing Houseに宿泊予定で、フェイスブックのメッセンジャーで連絡できる、というので試しました。
返信が早く、ベトナム人らしからぬ完璧な英語で文章が書かれていたので、スムーズに予約できました。1泊10万ドンだそうです。
後に知ることになるのですが、オーナーは英語を話しません。Google翻訳を使い返信していた、とのことでした。
ハノイから送迎
ハノイからの送迎もあり、片道料金は20万ドン。時間帯は朝と夕方(午後4時)のどちらかを選べると言います。
ピックアップはどこが良いかと聞かれたので、「夕方にザーラムのバスターミナル」と答えました。
そして送迎日の3月1日、午後2時にザーラムに到着したところ、先方から600mほど離れた幹線道路沿いで待つよう、メッセージを受信しました。
車は予定時刻を大幅に遅れ、私が乗れたのは午後5時半ごろ。この日はとても寒く、レインジャケット、ライトダウン、マフラー、帽子などを着用していたのですが、凍えそうでした。
送迎車は、ハイエースのような乗り合いバンで、ベトナム人の先客が10人ほどいてほぼ満席です。どうやらハノイと近郊の町を結ぶ、民間輸送業者で、Huu Lungが停車地のひとつになっているようでした。
ラゲッジスペースは補助席で埋めているため、大型スーツケースは乗せられないでしょう。私の40Lバックパックとロープバッグは詰めました。
乗り心地は最悪と言っていいでしょう。座席が狭い上、道路の舗装も悪いので、かなり車酔いして吐く寸前でHuu Lungに到着し、Headwall Climbing Houseの門前で降ろされました。
宿には米国人D氏のほか、フランス人カップル2人、イタリア人1人もいました。

岩場へのアクセス
Huu Lungの岩場は、村内各地に点在しており、各宿から遠いと2〜3km離れているので、宿に備え付けのレンタルバイクで向かうことになります。
Headwall Climbing Houseでは1日利用料が7万ドンです。ちなみに同宿の裏手には岩場Headwallがあるので、ここで登る場合は歩いて行けます。
各岩場ではアクセス料として2〜3万ドンを支払う必要があり、登っていると現地の人が徴収に来ます。

ルートの質
高さ30m弱のルートが多く、60mロープがスタンダードとなります。
シングルピッチからマルチピッチまでそろっています。
ひとつの岩場当たり十数本のルートがあり、相当期間いても飽きないでしょう。岩場やルート名はフランス語由来のものが多く、かつての植民地を訪れたフランス人クライマーがVietClimbとともに開拓したのかもしれません。
岩はフリクションが良く、チョークなしでもカチが止まります。あまり登られていないので、摩耗しないのでしょう。
3月は一応乾季に当たりますが、たまに雨が降ります。湿度が異常に高く、洗濯物を屋外に干しても、乾かない日があるほどです。
気温は15度前後ですが、体感としては東京の冬を思い出す寒さでした。
低温のため手汗をかかないほか、微妙に岩が湿度を含むため、フリクションが良いのかもしれません。
クライミングの感想
Huu Lungにはレンタルギアがないので、クライマーの多くが自分のロープを持参しています。
一人旅のクライマーも多く比較的、簡単にビレイヤーが見つかるでしょう。Mao’s Homestayに宿泊すると、滞在しているクライマーの人数自体が多いので、パートナーを見つけやすいです。
とはいえ村内が広くはないので、登っているうちに、仲間ができてきます。
私も滞在中、別の宿に泊まっている米国人やシンガポール人と仲良くなり、一緒に登りました。
3月1〜9日の滞在で訪れた岩場は4カ所で、内訳はHead Wall、Dragon Wall、L’ileNoire、Than Giong。
いずれもボルト間隔が適度で、ランアウトするようなルートはなく、安全に楽しめました。
6aまでの一部はロープドラッグが激しく、ボルトやアンカーの位置が不適切と感じましたが、仕方ないでしょう。ウォーミングアップは、別のルートでしましょう。
挑戦したグレードは6b+までで、すべてオンサイトもしくはフラッシュしたので、満足しました。

Huu Lungの街
山あいにある水田が多い、田舎の村です。ほぼ全ての子供が外国人を見かけると、手を振ってあいさつしてくるほど、無邪気です。
村民が、おそらく農耕用の水牛を連れて歩くなど、牧歌的です。
ビリヤード台を置いている商店が数店舗あり、クライマーの娯楽といったら、これぐらいでしょう。
宿での各種料金の清算は現金払いですが、村内にATMはありません。バイクで十数km走ることになります。