リードクライミングに欠かせない、クイックドローの基本構造と選び方を紹介したいと思います。
ペツルやブラックダイヤモンド、カンプなど主要ギアメーカーは、シングルピッチやマルチピッチ、アルパイン向けなど数種類のモデルを販売しています。
カラビナのゲートにキーロックシステムが搭載されていれば、ノーズに出っ張りがなく、ボルトから回収しやすくなるなど、機能に違いがあります。
クイックドローは各モデルの特徴を調べて比較し、用途に合わせて選ぶことが大切です。
基本構造①(ゲートの種類)
多くの製品は強度の高い変形D型の2枚のカラビナを、ドッグボーンと呼ばれるスリングでつないでできています。
カラビナのゲートの形状は大きく分けて、①金属の棒状のストレートゲート②①をやや内側に向けて曲げて加工したベントゲート③ワイヤーゲートーの3種類があります。
ストレートゲートは原則として、ボルト側にクリップするカラビナにしか使いません。
ベントゲートは、ロープをクリップするカラビナに用います。
ベントゲートなら、ロープをゲートに乗せやすく、カラビナを握り込みながらスムーズにクリップできます。逆にストレートゲートは、ロープがゲートの上を滑ってしまい、なかなかカラビナの中に入りません。
ワイヤーゲートは、カラビナの開閉部がゲートよりも張り出しているため、もともとクリップしやすい形状になっています。ボルト側、ロープ側どちらのカラビナにも用いられます。



基本構造②(ドッグボーンについて)
ドッグボーンの末端は、それぞれ形状が違います。
末端の片側は、スリング(ドッグボーン)が大きな輪っか状に縫われています。こちらには、ハンガーにクリップするカラビナ(ストレートゲート)を通して付けます。
輪っかに遊びの空間があるので、クイックドローはロープで引っ張られた際、上下左右に動きます。
もう一方の末端は、小さな輪っかになっており、ゴム製のパーツでカラビナとスリングを固定します。
固定されていれば、クリップの際にカラビナが動かないので、ロープを入れやすいです。



間違ってもゴムで固定した側のカラビナを、ハンガーにクリップしてはいけません。
輪っかに遊びがないので、カラビナがある一定の角度でハンガーに押しつけられた際、ゲートが開いてしまい、クイックドロー自体がハンガーから外れて落ちる、という事故が報告されているからです。
ゴム製パーツの形状や取り付け方は、メーカーによって異なります。
注意したいのは、ゴムは補助的な役割を果たすパーツだということです。
カラビナは必ず、ゲートを開けて、ノーズからスリングの輪っかに通さなければなりません。
過去に欧州で、カラビナをスリングの輪に差し込まず、カラビナとドッグボーンをゴム製パーツでつないだだけで使用し、未成年のクライマーが墜落。
ゴムがちぎれて、クイックドローが分解し、クライマーが死亡した事故がありました。
ギアの扱いに慣れていない、母親がドローをセットしたのが原因でした。
岩場では、他の人がボルトにクイックドローを掛けたルートを登らせてもらうことがあります。
設置済みのギアの状態は、下から見上げただけでは分からないので、注意して使いましょう。
ベントゲートvsワイヤーゲート
ロープ側に使う「ベントゲート」と「ワイヤーゲート」には長所と短所があります。
重量や安定性など使用目的により要求される要素は変わるので、一概にどちらが良いとは言えません。
ワイヤーゲートは、クライマーの墜落時にゲートが振動で開いてしまう「ウィップラッシュ現象」が起きにくいことが特徴です。
同現象は、意外と頻繁に起こると報告されています。ロープがカラビナの中を勢いよく流れる影響で、クイックドロー自体が左右に細かく振動するのが原因だと分かっています。
ワイヤーゲートのカラビナを、ロープ側に使えば、同現象の発生リスクを減らせるでしょう。
一方、ワイヤーゲートは、カラビナ自体のバランスが悪くなりがちです。
特にボルト側に使用した場合、クライミング中にカラビナが回って、縦向き(メジャーアクシス)から横向き(マイナーアクシス)になってしまうことがあります。
カラビナは縦向き時の強度が一番高く、横向きになると3分の1程度に低下します。この状態で墜落すると、破断の危険性が増します。
この点、ベントゲートはバランスが良く、回りにくいとされています。
クイックドロー自体の安定性が増す一方で、重量はワイヤーゲートより増えることが多いです。装備の軽量化といった観点では不利になります。
両ゲートの長所を取り込んだのが、ブラックダイヤモンドの「ホットフォージ ハイブリッドクイックドロー」。ハンガー側にストレートゲート、ロープ側にワイヤーゲートを採用し、安定性と軽量化を両立しています。
ワイヤーゲートは軽くて操作感が良いのですが、逆にゲートが不意に開いてロープが外れやすいともされています。
初めて岩場に出るクライマーがそろえるなら、ストレート、ベントゲートのクイックドローの方が汎用性が高いでしょう。
ちなみに上記写真で示した製品は、ペツルの「ジン アクセス」(12cm/107g、17cm/113gともに税込2,860円)です。ハンガー側はストレートゲート、ロープ側はベントゲートで、キーロックシステム採用のカラビナを使用。耐久性も高く、初めて購入するドローとして十分過ぎる機能を持っており、オススメです。
文章が長くなったので、次回につづきます。